用語解説
a-C:Hは、4タイプに大別されるDLC(非晶質炭素膜の総称)のうちの1タイプで、膜内に水素を5~50at%含有していることが共通点で、ダイヤモンド状のsp3混成軌道を持つ炭素原子よりもグラファイト状のsp2混成軌道を持つ炭素原子が多めに混在した構造になります。
a-C:Hの最大の特徴は水素含有にあります。水素が含まれることで、他タイプのDLCよりも密度が小さく柔らかい被膜ですが、膜内部の応力が小さいので密着性は良いといえます。さらに相手材に依存しますが一般に摩擦係数が低い傾向にあります。そのような特徴から理容はさみや髭剃り刃のコーティングに利用されています。また、グラファイト状のsp2混成軌道を持つ炭素原子が多めで黒い被膜であるという意匠性と、主成分が炭素なのでコーティングすることで金属アレルギー対策にも有効であるから腕時計にも用いられています。
主な成膜方法は固体炭素を原料とし、炭化水素ガスを雰囲気ガスとして水素含有を可能とするスパッタリングやイオンプレーティングなどのPVD法や、炭化水素ガスや有機溶媒蒸気を原料とした熱CVD法、プラズマCVD法が挙げられます。特に高周波電力を印加することにより被膜原料ガスのプラズマを発生させてプラズマ中のイオンを被覆対象に引き付けて膜形成させるプラズマCVD法は、室温から成膜できることから、工業用品だけでなく、ワイン向けペットボトルなどのプラスチック容器の内壁に酸素、炭酸、香りなどのガスバリア性付与を目的としたDLCコーティングプロセスとしても実用化されています。ペットボトルなどの飲料・食品の保存容器へのコーティングとしてDLCはガスバリア性だけでなく、内容物が付着しにくく不活性であること、ナノメートルオーダーの薄膜なのでコーティングされたままリサイクルできる等の観点からますますの普及が予想されます。