電気めっきの品物に対する析出(皮膜)分布を表現する言葉として「つきまわり」と称する用語がある。これは、電気めっきにおいて慣習的に利用されている言葉で、被覆力と均一電着性とを併せた内容を意味する。前者は、規格用語では低い電流密度でも、めっきの析出を可能とするめっき浴の能力と定義され、また後者は厚さが均―にめっきされるめっき浴の能力と言うことになっており、換言すると、前者は定性的、また後者は定量的な内容を表現する用語である。いずれにしても、電気めっきはめっきを電気的に析出させるものであるから、その析出形態(めっき厚さの分布)は、電流の強弱(電流分布)に拘束される。つまり、品物の形状が複雑で、品物のどの位置をとっても等しい電流濃度(密度)が与えられない場合には、電流密度の差に対応して、析出しためっき皮膜の厚みに厚薄を生ずる。(注:厳密に言えば、被覆力や均一電着性には、めっき液の種類、液組成、電解条件なども関与するが、ここではこれらの要因を無視して電流密度差によるものだけを挙げた。)

たとえば、図11のような試料を社内仕様のサージェント浴を用いて0.lmmを目標としてクロムめっきした場合のクロムめっきの析出状態は、図12のようであった。

試料の形状

また図13のような試料に同じ厚さのクロムめっきをすると図14のようなクロムめっきの析出状態を呈した。つまり、ここで挙げた例はめっき液として特に「つきまわり」の悪いクロムめっきに限定して、形状のめっき厚さ分布に及ぼす影響について調査した結果を記載したもので、他のめっきの場合でも多かれ少なかれ発生する現象である。

試料の形状

試料に析出したクロムめっきの厚み分布

試料に析出したクロムめっきの厚み分布

そして電気めっきにおいて派生する「つきまわり」の良否を改善する方法として、補助陽極を利用して低い電流密度部の析出速度を向上させる方法や、補助陰極を用いて高い電流密度部の電流密度を低減させ、めっき析出速度を制御する方法などのめっき手法も利用できるが、これにはおのずと限界があるために、製品設計の段階でも上述の製品形状にもとずく「つきまわり」の良否の現象を十分勘案したうえで設計がなされなければならない。