クロムめっきの硬さは、工業利用面における支配的な要素と考えられている。実際硬さがが増大すれば摩耗が減少するという多くの実験例が報告されている。しかし、このような関係は絶対的なものときめることはできない。

硬いものは裏をかえすと脆いということであり、衝撃に対する弱点を軽視することはできない。そこで摩耗にある程度の靭性が求められる場合は、硬さだけにこだわるべきではない。使用環境を十分考慮したうえで、硬さを選定すべきである。

クロムめっきが利用されている環境は多岐にわたっており、したがってその摩擦の様相も複雑である。
例えば、軸や軸受けのように潤滑油の存在のもとで摩擦される摩耗、ゲージ類のように乾燥摩擦による摩耗、金型のように高圧あるいは、高温下における圧縮または酸化による摩耗、また腐食性因子の雰囲気で使用される各種ローラ類など、摩耗の性質は種々雑多である。潤滑油の存在において、摺動応力をうける部品の摩耗が、組み合わされる相手の材質により必ずしも一様でないことは良く知られている。

一般機械あるいはその他の耐摩耗性を必要とするめっきは、Hv750~900の硬さを有すれば十分で、この硬度は一般的な電着条件で容易に得ることが出来る。また、耐衝撃性が要求される場合には、多少皮膜硬度の低下を伴うが、熱処理等で靭性を改善することができる。

用途の上で特に硬さを要求されるものもまた少なくないが、これらのものに対しては、できるだけ高硬度となる浴やめっき条件を採用すべきである。
なお、現在工業用クロムめっきの最高硬さとして得られる値は、Hv1100前後である。

参考文献
岸 松平、クロムめっき、日刊工業新聞社、1964