めっきの密着性の概念

めっき技術は、単に、部品を錆から守り、美観を付与すると言う機能(役割)だけでなく、潤滑性、硬さ、耐熱性、シール性、耐摩耗性、型離れ性、熱、電気伝導性、磁性など多くの特性を付与できる技術である。ところが、このようなめっきによる機能の付与も、部品(基体)と、その上に施されるめっきとの密着力(結合力)が保証されてこそ始めて成立するもので最も基本的、且つ重要な問題である。そして、めっきの密着力は、確かに重要な問題ではあるが、その結合力が何に由来するものか、あるいは、その結合力はどの程度のものか、一般に公表されることは少ないので、このことについて簡単に記す。

今、ある下地金属にめっきをしようとする場合、下地金属の原子と、電解液(めっき液)中にある金属イオンが、下地金属表面近傍にできる電気的二重層を通過して、下地金属表面で電子を受け金属原子に還元されて、下地金属原子と互に結合するのであるが、この時の結合は、めっき金属の原子と、下地金属の原子が、出来るだけ近接することによって生ずる原子的な結合(原子間引力)によるものである。 したがって、良い密者性を有するめっきは、簡単にはがれるものではなく、下地金属に対する接合強度は、めっきあるいは、下地金属のもつ材料強度に等しい。

 

下地金属の一般的な状況とめっきとの関係

一般に、金属の表面は、あたかも、金属そのものが裸で露出しているかのように見えても、実際には、その金属の保存状況、加工の履歴の違いなどによって、いろいろな付着物(油脂、ホコリ、ゴミなど)や変質物の層が、その表面をおおっている。林は、この状態を図-8のようなモデル図で説明している。そして、めっきをこの状態の表面に施そうとする場合、下地金属とめっきとを強固に接合しようとすると、それぞれの金属原子を接近させてやる必要があるために、 図-8の汚れの層①,錆、スマットの層②,酸化物の層③ などを除去する必要がある。加工層④ および拡散層⑤は、素材⑥と組織や構造は異っても、その金属そのものであるから、必ずしも除去する必要がない場合も有りうる。つまり、めっき技術を簡単に表現すると、下地金属の整備と電着とから成立しているとも言える。

金属表面の断面モデル図

【各層の概略説明】
加工層:機械加工(切削、研磨鍛造、絞り)によって、表面が内部の組織、構造と異なった状態になっている。

拡散層:加工層と金属組織とが入り混った状態になっている。

酸化物層:金属を空気中にさらしたり熱処理したりあるいは、加工熱を与えた時にできる層である。

 

めっき皮膜に生ずる欠陥と下地金属の関係

めっきの一般的な特性として、結晶の遺伝性がある。つまり、めっき後の外観は、極端に厚く(mm以上)めっきする場合以外は、原則として、めっきする下地金属の表面状態を継承し、これが粗ければ粗い状態で仕上がるのが通例である。換言すると、下地金属に形状的な欠陥(たとえば、くばみ)や組織的な欠陥(たとえば不純物の偏析)があれば、めっきの表面は、これを継承し、前者の欠陥例では、めっき表面に、くばみ(ピットあるいは、ピンホール)を形成し易く、また、後者の欠陥例の時には、くばみ、もしくは突起やざらつき、あるいは、めっきの未着、またまれには下地金属間のデラミネーションを呈し、外観からはあたかもめっきにフクレとして見えることなどがある。

めっき後、さらに研摩工程を経るもの、たとえばクロムめっきをミラーフィニッシュとする場合には、突起、ざらつきも結局欠落して、くばみ(ピット)となることもありめっき表面に欠陥部として残存する場合もありうる。

密着性を確保するために必要な情報

めっきの密着性を保証し、めっき金属の機能を有効に発揮させるためには、少なくとも下地金属(ワーク)を構成する元素の比率(化学成分)と加工の履歴を必要とする。 すなわち、図-8のモデル図にのっとり、汚れの層①、錆スマットの層②、酸化物の層③を効果的に除去するためには、下地金属に応じた効果的な薬液処理が必要である。